近年、「仕事と育児の両立」「多様な働き方」「男性の育児参加」などをめぐる社会的要請が高まる中で、 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児・介護休業法」)が、2025年10月1日をめどに大きな改正を迎えました。
この改正では、「子どもを育てながら働き続けられる環境を整備する」ことを目的に、企業の義務化措置を含む制度の見直しが行われます。例えば、子どもの年齢に応じた働き方の柔軟化、事業主による個別ヒアリングや配慮義務の新設などがポイントです。
改正は2025年4月1日にも一部施行されており、今回の10月施行はその第二フェーズにあたります。本記事では、改正の主なポイントを整理し、働く親(特に育休取得を検討する方)や企業側双方にとって「何がどう変わるか」「どんな点に注意すべきか」を分かりやすく解説します。
2025年10月改正のポイント
今回の改正について、主なポイントを整理します。併せて、2025年4月1日施行分も背景として簡単に言及します。
※まずは背景として4月1日施行分について
- 「子の看護休暇」制度の見直し(名称「子の看護等休暇」へ変更、対象年齢拡大、小学校3年生修了まで、取得理由に学級閉鎖等や入学式・卒園式を追加)
- 所定外労働(残業等)を免除・制限できる対象年齢の拡大(従来「3歳未満の子」→「小学校就学前の子」まで)
- 短時間勤務制度等の代替措置として「テレワーク」等を追加
- 育児休業の取得状況公表の義務対象企業の拡大(従業員数1,000人超→300人超)
これら4月施行内容は、育児・介護休業の「第一段階」の改正です。そして、2025年10月1日からは、さらに次のような改正が義務化されます。
2025年10月1日施行分の主なポイント
- 柔軟な働き方を実現するための措置の義務化
・3歳から小学校就学前の子どもを持つ労働者を対象に、企業は以下のような「柔軟な働き方を実現するための措置」のうち、5つの選択肢から少なくとも2つ以上を選んで制度化・実施せねばなりません。
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(例:月10日以上/時間単位取得可)
③保育施設の設置・運営等(福利厚生型支援も含む)
④年間10日以上(時間単位取得可)の「養育両立支援休暇」の付与
⑤短時間勤務制度(例:1日6時間勤務など)
※制度を形だけ導入すればよいわけではなく、「実質的に利用可能」「誰でも選択できる」形であることが求められています。 さらに、上記制度を対象となる従業員に周知・意向確認を行う義務があります。 - 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮義務
・企業は、労働者が妊娠・出産・育児の申出をしたとき、子が3歳になる前の適切な時期に、当該労働者に対して「働き方・勤務時間・勤務地・業務量」などの就業条件に関する意向を聴取しなければなりません。
・さらに、聴取した意向を勤務条件に反映するよう「配慮」する義務があります。例えば、始業時刻を遅らせる、勤務地を限定する、業務量を軽減するなどです。 - 子どもを育てながら働き続けやすくするための対象年齢の見直し等
・上記「柔軟な働き方」を対象とする年齢が、3歳~小学校就学前と明確化されました。
・「養育両立支援休暇」の導入が、今回の改正で制度選択肢の一つとして位置付けられました。※「養育両立支援休暇」は「子の看護等休暇」と同じく子どものために仕事を休むことを目的としたもので、「子の看護等休暇」よりもより広義に使うことができます。企業によってこの休暇が有給であるか無給であるかが異なりますので、所属する企業の規定を確認しましょう。 - その他実務事項・企業対応義務強化
・制度を定めるにあたり、労働者代表(過半数の労働組合又は過半数代表)から意見聴取を行う必要があります。
以上が、2025年10月施行分における改正の大枠です。
改正は企業側に新たな義務を課す内容となっており、働く方(特に育児を控えている方)にとって制度が使いやすくなる一方で、制度の周知をしっかり行っていかないと利用されない、といった可能性もあります。また企業としては改正によってどんどん対応しなければいけないことが増えていくので、制度が複雑化するごとに負担が増えてしまうということも危惧されています。
改正に関するよくある疑問
今回の改正にあたって、これから制度利用を検討する人からよく出てくる疑問を整理します。
Q1:この改正は「育児休業そのもの(いわゆる育休期間)を変えるものですか?
A:今回の2025年10月改正のポイントは、主として「働き方の柔軟化」や「企業の個別対応義務」の部分であり、いわゆる「育児休業(子どもが1歳未満の間/または延長制度)」そのものの基本期間を大幅に変えるものではありません。
ですので、制度を利用しやすくなるという意味では「実質的に育休を取りやすくなる」面がありますが、「育休期間が延びる/短くなる」という点では今回の改正の主目的ではありません。
Q2:「3歳から小学校就学前」の子を育てている場合、柔軟な働き方を実現するための措置は必ず使えますか?
A:今回の改正では、企業に対して対象となる労働者(3歳~小学校就学前の子を育てている方)に対して柔軟な働き方を実現するための措置を「少なくとも2つ以上選択して制度化」し、その中から労働者が「1つ選べる」ようにする義務があります。理論上は1つの選択肢は必ず使えるようになっているということになります。
Q3:この制度改正を理由に、育休申請を断られたり、勤務条件が悪くなったりすることはありますか?
A:法律上、育児・介護休業法は労働者の育児・介護を理由に不利益扱いを禁止しています。例えば、育休を申請したことを理由に解雇・配置転換・不利益な取扱いを受けることは原則禁止されます。
今回の改正で、企業に対して「意向聴取・配慮義務」が課せられたことから、むしろ企業が育児を理由に働きにくくならないよう制度を整えることが求められています。とはいえ、実務上「制度が形ばかりで使われていない」「管理職・職場風土が追いついていない」というケースも想定されるため、実態を確認することが重要です。また、もし不利益取扱いがあった場合、相談窓口(例えば、労働局・社労士)に相談可能です。
Q4:この改正は男性の育児休業にも関係ありますか?
A:はい。今回の改正の主眼は「育児をする労働者全体(性別を問わず)への子どもの年齢に応じた支援・働き方の選択肢の拡大」にあります。つまり、男性でも「3歳から小学校就学前の子を育てる従業員」として、勤務時間・勤務場所・働き方を相談できる制度対象となります。
改正に関する注意点
制度改正による「制度の整備」「義務化」という動きは歓迎すべきものですが、実務上・利用者側から見て注意すべきポイントも多くあります。以下、働く方・育休取得を検討する方が知っておきたい注意点を整理します。
1. 企業による制度整備・運用の遅れ
今回の改正では、企業に対して柔軟な働き方の措置や意向聴取・配慮義務が課せられています。とはいえ、実践面では「就業規則の改定」「労働者代表との協議」「制度の周知」「管理システム(勤怠管理・テレワーク環境等)の整備」など、準備が必要な項目が多くあり、勤務先の状況として「制度はあるが使いにくい」「対象となる働き方が限定的」というケースもありえます。利用者としては、制度が机上のものになっていないか、所属企業の実態を確認しておくことが重要です。
2. 対象年齢・対象者の整理
今回、改正の対象として「3歳から小学校就学前の子どもを持つ従業員」が対象として明記されましたが、実務運用では「いつから3歳と判断するか」「パートタイム・短時間勤務の人も対象か」など細部については記載がありません。そのため、企業の判断によっては自分の考えている範囲と異なる可能性があります。
「改正後の制度を利用しようと考えていたのに、実際は利用できなかった」ということがないように、詳細についてはあらかじめ人事総務に確認しておきましょう。
3. 制度を使いやすくするための職場風土・上司・同僚の理解
制度がいくら整備されていても、実際に使えるかどうかは「職場の理解」「上司の協力」「同僚との調整」が鍵となります。たとえば、テレワーク制度を導入していても、実際には使いにくい雰囲気だったり、時差出勤できてもチームの業務に支障が出ると感じて申請を躊躇したりするケースがあります。
したがって、制度利用を検討する際には、実際に利用した人の声を確認したり、自分の所属部署で制度を使えるかどうかを上司や同僚と話しておくことが望ましいです。
4. 利用可能な措置と自分の希望のギャップ
先に述べたとおり、企業は「5つの措置から2つ以上を選択して制度化」する義務があるため、2つ以外の3つの措置は制度化されない可能性があります(5つすべての措置を制度化する可能性もあります)。そのため自分としてはテレワークの利用を望んでいたのに、2つの選択肢にテレワークが入っていなかったということはおおいにあり得ます。必ずしも自分の希望の選択肢があるとは限らない点には注意しましょう。
5. 改正すぐの企業対応には混乱がつきもの
法律改正があった直後は、企業側も制度整備・運用準備に追われるため、ルールが流動的だったり、案内が遅れたりすることがあります。利用者としては「改正直後で社内案内が整っていない」可能性を念頭に置き、早めに確認・相談をしておくことが賢明です。
今後育休を取る方に向けて
最後に、これから育児休業を取ろうと考えている方に向けて、改正を踏まえたアドバイスをお伝えします。
自分のライフステージ・育児状況を整理しておこう
まず、「子どもの年齢」「保育園・幼稚園・小学校の入園・入学時期」「夫/パートナーの働き方」「住居・通勤時間」など、育児と仕事を両立するために影響する要素を整理しておくと良いでしょう。
今回の改正では「3歳から小学校就学前」の年齢層が柔軟働き方制度の対象として明記されているため、この時期にどう働きたいかを意識しておくと、制度を使いやすくなります。
自分の希望を言葉にしておこう
例えば、以下のように「こういう働き方があれば助かる」という希望を事前に整理しておくと、自分の状況も頭の中で整理され、周囲との話がスムーズになります。
- 「毎日 8:00~17:00 という勤務は難しいので、始業を 9:30 からに変更できたら助かる」
- 「週2日はテレワークで子どもの送り迎えをしたい」
- 「子どもが小学校に入学したら、勤務時間を短めにしたい」
- 「年間10日程度、時間単位で休暇を取りたいイベント(参観・行事・送り迎え含む)がある」
制度改正をよいきっかけとして、「自分はどんな働き方をしたいのか」を具体的に考えておくとよいでしょう。
勤務先制度・職場環境を事前に確認しよう
子育てと仕事を両立させるためには、制度そのものだけでなく「使える環境」であるかどうかが非常に大きいです。以下をチェックリストとして活用してみてください。
- 勤務先の就業規則・労使協定に今回の改正内容が反映されているか確認する
- 人事・総務に「育児と仕事の両立支援制度」について質問してみる
- テレワーク・時差出勤・短時間勤務の制度が、実際に使われているかどうかを確認する
パートナーや家族とも話し合おう
育児と仕事の両立は、個人だけの問題ではありません。パートナー・家族・保育園・学校・地域といった環境も絡み合います。制度を活用しやすくするためには、パートナーの働き方・家事・育児分担、通勤・帰宅時間、家族のサポート体制なども含めて話し合っておきましょう。法改正によって「働き方の選択肢」が広がったとはいえ、家庭をまわしていくのは家族です。制度の活用ありきで生活を考えない方が賢明です。
迷ったら専門家に相談を
育休・働き方・制度利用については、会社の人事・総務だけでなく、社会保険労務士・弁護士・地域の労働相談窓口などの専門家に相談するのも有効です。特に「制度はあるが実質使えない」「申請後に評価制度で不利益を感じている」など、疑問・不安がある場合は、早めに声をあげることでトラブル回避につながります。















